NEW TEA LAB #005 森枝幹 KANN MORIEDA / Chompoo / 渋谷

[THEME] コンブチャ

日本茶の可能性を追求する茶葉屋【GEN GEN AN 幻
その周囲に集うさまざまなジャンルのプロフェッショナルとの茶実験談義「NEW TEA LAB」。第五回目は、下北沢の人気店 Salmon&Troutのシェフを勤めた後、渋谷パルコのタイ料理屋 「Chompoo」を手がけるシェフの森枝幹さん。ノンアルコールドリンクの新たな可能性を広げる「コンブチャ」の世界を掘り下げます。



“当たり前”の創出

「隙間を見つけたり、人がおもしろいと思うことのツボをつきたいんですよね。今あるものに対する違和感をあえてつくったり、同じことをしながら少しずらしたりすることで、新しいことをやろうとしてきました」
下北沢のSalmon&Troutを経て、2019年11月に、生まれ変わった渋谷パルコでタイ料理屋「Chompoo」を始めた森枝さん。2014年のオープン以来知る人ぞ知る名店として人気を博した「Salmon&Trout」を始めた頃も、コース料理の中にあえてカジュアルさを取り入れたり、料理のジャンルを混ぜ合わせたり、今となっては当たり前になっているけれども当時は珍しかった食材の合わせ方をしたり、という取り組みをし続けていたという。

ステレオタイプからの脱却

渋谷パルコに出店した「Chompoo」はタイ料理屋。多ジャンルを掛け合わせた料理に挑戦してきた森枝さんが『タイ料理』という特定のジャンルで店を出したことにはどんな意味があるのだろうか。
「日本で『タイ料理』というと、『屋台っぽいよね』『ガパオでしょう』など、偏ったステレオタイプが根強く残っています。でも、実はタイという国は、料理に限ったことではなく、いろいろな国の人との相互理解をしているという意味でとても発展している。料理でも、多種多様な調味料を取り入れたり使ったりしているけれど、日本はとてもステレオタイプに『タイ料理』を区切っています。そんな、偏ったステレオタイプがあるからこそ、そういった人の意識を変えようと思って、あえて『タイ料理』というジャンルを絞った挑戦をしています。ステレオタイプの範囲内ではなく、その先の+α、『オプション』を増やしたいという感覚です。」



ズレ・崩しの精神

基準値があるからこそ「ズレ」があり、「崩し」の余地がある。その「ズレ」の中からおもしろいものは生み出されるのではないか、と森枝さんは言う。
「ワインやお茶には、みんなの中である程度の基準がありますよね。だからこそ、『美味しさ』と『おもしろさ』がある。今までの経験則があって、その基準と比べながら飲むから『壊す』『ズラす』ができるわけです。でも、日本の中で、ノンアルコールのペアリングという世界はまだ確立されていない。だから、自分としてもまだ基準のないノンアルコールの『コンブチャ』を深堀するのはどうなんだろうと思っていたんです」

「コンブチャ」とは、お茶を発酵させてつくった植物性の発酵ドリンク。アメリカを中心としてここ数年、ワークショップが大人気だったり、専門のバーができたりと、盛り上がりを見せている。森枝さんが「コンブチャ」に注目したのにはある理由があるという。
「まずは味が好きであることがひとつです。そして、アメリカには多種多様な『コンブチャ』ブランドが生まれていて、価格帯でも高額(700-800円)のものもあり、それらがきちんと売れていたんです。日本のノンアルコール市場は、価格帯150円前後という縛りがある。そういった面でも、クリエイティブの幅があるな、と感じたのが最初でした。また、街の中で、なんとなく口寂しく何かを飲みたいな、と思ったときに、甘すぎなくてすっきりと飲めるものが少ない。ノンアルコールというカテゴリの中でひとつの主役になるラインのものをつくりたいな、という気持ちがありました」
日本ではまだ決してメジャーな存在ではない「コンブチャ」。EN TEA代表の丸若は、森枝さんのつくった「コンブチャ」を飲んだときに、「お茶を大切にしてもらっている飲み物だ」と感じたという。

「日本には、自分が美味しいと思うコンブチャの作り手が周りにはほとんどいなかったんです。なので自分で作ろうと思い、いろんな茶葉で実験をしてみました。その実験の一貫で、EN TEAの焙じ茶の焙煎を変えて作ってみてもらったりもしました。何度も試して、舌で覚えて、その繰り返し。その結果、美味しいんじゃないか、と思えるものができたんです」



どこまででも遊べる「コンブチャ」の世界

「できあがりの味から逆算してつくるんです」そう語る森枝さんの顔は嬉々としている。

「同じ原料のものを2つ用意しても、発酵の具合で別の味になる。発酵を促進する菌は生きているので、時間や分量でレシピを決めることができないんですよね。感覚・センスの問題になってくる。その、舌で記憶していく作業は少しGEEKっぽいですよね」

コンブチャの味は、素となるお茶に「紅茶きのこ」と呼ばれる菌を入れて発酵させることで糖分が酢酸に変化した結果生まれる味わいだ。そのため、作り手の好みやセンスによって味が変わってくるという。「もともとのベースで遊べる上に、後から他のもの、例えばマンゴージュースを入れたり、赤紫蘇ジュースを入れたりと、作ったベースに上乗せして遊ぶこともできるんです。まずはこの楽しさを知ってほしいですね」

知れば知るほど奥が深い「コンブチャ」。プレイヤーが増えれば増えるほど、この「遊び場」は広がるばかりだ。





コンブチャは、「GEN GEN AN 幻」とChompoo」で、実際に飲める機会を準備中です。


Edit & Text:Kana Takeyama(PARK 365

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