NEW TEA LAB #010
紺野真/三軒茶屋 uguisu ・西荻窪 organ シェフ


[THEME] 「焙じる」行為の可能性

日本茶の可能性を追求する茶葉屋【GEN GEN AN幻
その周囲に集うさまざまなジャンルのプロフェッショナルとの茶実験談義「NEW TEA LAB」。第十回目は、三軒茶屋のuguisuと西荻窪のorganを手掛けるシェフ・紺野真さんの元へお邪魔し、焙じ茶ワークショップを通してお茶の可能性を語らいました。



「焙じる」という行為

東京・三軒茶屋の一角にひっそりと佇む名店「uguisu(ウグイス)」、西荻窪を代表する人気ビストロ「organ(オルガン)」。どちらも、厳選されたナチュラルワインと、こだわり抜いた食材を手間暇かけて作りあげた、美しく美味しい料理を提供するフランス料理店。その2店舗を手がけるシェフ・ 紺野真さんの手にかかれば、「お茶」という存在はどんな変化をするのだろう。「お茶」を使ってどんな取り組みができるのだろう。そんな好奇心を胸に秘め、「茶」の可能性を探るため、「焙じ茶」にスポットをあてたワークショップを行った。

浅煎り・中煎り・深煎りの3種類、そして商品のティーバッグを水出しで味わう「焙じ茶ワークショップ」。東家とGEN GEN AN幻が共同制作を手がけた焙烙を直火にかけて、その場でEN TEAの茶師・野辺が茶葉を焙じていく。細かく焙烙を振りながら、煙の出る瞬間を見極めて、色を見ながら焙じ具合を調整する。ふわっと白い煙があがると、仕込みを行う店内の中が、一気に焙じ茶の香りにつつまれた。

「緑茶・烏龍茶・紅茶。茶にはいろんな種類があります。これらはすべて同じ茶の木からできています。種類が変化するひとつの軸として、発酵度合いの違い。緑茶の発酵度をあげると烏龍茶へ、それがさらに高発酵になると紅茶へと変化します。もうひとつの軸が焙煎。茶葉を焙じることで、また違った味わいや香りが生まれていきます。焙煎にも度合いがある。発酵と焙煎、組み合わせは無限。それがお茶のおもしろいところだと感じています」(丸若)

日本の中でいわゆる「ハレ」の茶が玉露・緑茶ならば、焙じ茶はいわば「ケ」の茶。その「ケ」=「日常」の茶である焙じ茶ができあがる工程のひとつ「焙じる」という行為、そしてそこから生まれる茶の味わいに着目したワークショップが今回のテーマだ。



「料理」と「焙煎」

「EN TEAのティーバッグの焙じ茶は繊細で、緑の感じもあってすごく良いですよね」紺野さん含め、uguisuのスタッフの皆さんがそう口にしながら、焙煎の過程を興味深く見つめている。

「火の強さで全然変わりますよね。火が強すぎると、周りが色変わっても、中に火が通っていなかったりもしますよね。焦げたりもあるでしょうし。よく料理では、ここだ!というポイントを長く取り、微調整ができるため低温調理という方法を取ることもありますが、焙煎は直火で一気に焙じるんですね。」(紺野さん)

「茎の部分を焙煎し、熱を加えることで膨らみが増します。湯気・煙が立つと焙じ茶としての膨らみや香ばしい香りがついている証です。短時間でシュッと煎る方が味の透明感が増します。逆に長時間でじわじわと煎る方が内側の青っぽい感じ、雑味が強く残ってしまう気がします。これはまだ成分的な検証はできていないのですが。」(EN TEA開発担当・野辺)

まずはできたての浅煎りの焙じ茶を口にする。
「正直初めての味わいです。もうちょっと飲みたいな(笑)。浅煎りと言われる焙じ茶は口にした事はありますが、最初は焙煎したふわっとした香りがきて、飲んだ後の部分が少しぬるっとしていますね。ぬるっというのかまろやかというのか。でもグリーンで。そのぬるっとしている部分が透明感があって。」紺野さんが不思議そうにじっと飲み終わったあとのカップを眺めている。

「鉄瓶で淹れると、角が取れてとろっとします。もっと芳醇な味わいにもなる。さらに器を温めるとまた変化する。アイスにすると、味も色もまた変わってクリアで美味しい。どんな水を使うか、どんなもので淹れるか、温度によっても味が変わるのもお茶のおもしろいところです」(丸若)

浅煎りに続いて中煎り・深煎りへ。焙じ茶の世界に浸る時間が流れていく。焙烙の中で茶葉が揺り動かされ、白い煙を出しながら煎られていく。




「中煎りに関しては、あまりここを突っ込んでいるところは少ないです。焙煎具合の間のコントロールが非常に繊細なので。でもそこに実験のしがいがあると私たちは思っています。
こうした試みはいつも試行錯誤ではありますが、それを実現が出来ているのは開発チームの豊富な経験値と技術力、そこに若い感性も合わさることに尽きます。」(丸若)

「(浅煎りに比べて中煎りは)香りと味の輪郭がキリッとしてきますね。同じ茶葉とは思えないほどの違いがあります。深煎りは、茶葉自体にも膨らみがあって、ふわふわしている。甘味も感じます」(紺野さん)

同じ茶葉を使った焙じ茶ひとつをとってもさまざまな可能性がある。茶葉の見た目・味わい・香りの変化、後味、旨み、渋みのバランス。「お茶の淹れ方に失敗って本来はないんですよ。さらに、焙じ茶は緑茶に比べると強度が強いので、抽出が失敗しづらいという点もありますね。」と丸若はいう。

「まさに一期一会。紺野さんも感じてくれたインパクトがある味わいなので浅煎りはとても魅力的で、記憶に残る味わいですね。更に品種にこだわるとさらに可能性が広がります。因みにEN TEAのティーバッグは、中煎りよりの浅煎りです。」(丸若)


(左から、浅煎り・中煎り・深煎りの茶葉)

「新しさ」を感じる焙じ茶の世界

飲むだけではなく、実際に「焙じる」とどうなるか。挑戦してもらった。
一煎分、2.5gの茶葉を焙烙にいれて火にかける。細かく焙烙を振りながら煎っていくと、ぶわっと煙が出てきて「おおー」と声があがる。茶葉の色を見て火から離し、焙烙のお尻の部分からできあがった茶葉を出す。「焦げちゃったかな」「ムラがあるね」みんなでわいわいと話しながら、「焙じる」行為を体験する。




「焙煎したてはムラがあっても個性として美味しく飲めるんです」(野辺)

ご自身で焙じたお茶を口にしながら、紺野さんの口からはこう漏れた。「相当おもしろい」

「今回、初めての体験でしたが、コーヒーやワインの世界にも極めて近いですね。最初の浅煎りを飲んだときのインパクトはすごかった。サードウェーブコーヒーやナチュラルワインを初めて飲んだときような気持ちになりました。今まで体験したことのない味わいだっただけに、これは美味しいのかな?このバランスはどうなんだろう?というような驚きがありました。ここ10年ほど、ナチュラルワインの世界では、抽出を軽くしたいわゆる『うすうま』がトレンドになっているけれど、『うすうま』だけではおもしろくないな、と思うときもあります。ブドウ本来の味わいを残すためとはいえ、浅いだけで良いのか、という議論もある。同様にお茶も、浅煎りではストレートに茶葉のニュアンスを感じますが、焙煎することで新たな茶葉の魅力を引き出す可能性を感じます。」(紺野さん)

ワインはボトルに入ったものがある種完成系として市場に出回っている。茶葉はそれとは異なり、「素材」としての側面を持つ。

「高品質なお茶は作ったあとにアレンジができる。そこがマス仕様でもあり、プロ仕様でもあるというか。今日はどうしようかな、ができる面白さがあります。」(丸若)

「お茶は前から(素材として)使いたいな、と思っていました。お茶にしろワインにしろ、生産者がつくったものをいかに尊重して美味しい形に出せるかが重要だと思っています。僕の場合は、めちゃくちゃなことをやってしまいそう。何かと一緒にしちゃえ!とかやってしまうと思います。ワインの場合だと、それは生産者への尊敬の念を欠いているように思えてしまいますが......。例えば、お茶を使うなら動物性のものは使わず、旨味成分を多く含むもの、例えばトマトをミキサーにかけて濾したものに焙じ茶を加えることで澄んだお出汁のようなものができるだろうな、と。お茶のタンニンと香りがプラスされて美味しく、かっこいい感じになりそう。デザートにも合いそうです」(紺野さん)

「がんがん遊んでください。素材として、スパイスのようにパレットに加えてもらえると嬉しいです。」(丸若)

料理のアイデアの元になる素材としての「茶葉」の在り方。それこそがEN TEAが理想としている茶の形だ。茶屋だけでの追求では成しえない、新しく生まれる「美しい味」。茶の可能性を広げる実験は、ここからまた始まっていく。





Edit & Text:Kana Takeyama(PARK 365

NEW TEA LAB

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